月下にて



R18・青姦/襲い・誘い受け三日月。
・小狐丸の兄上呼び設定を取り入れています。他にもちらほらねつ造があります。
・小狐丸の口調があやしいかもしれません。
・恋人でもなく友人でもなくみたいな感じです。



さらさらと髪の飾り物がゆれた。深い藍の髪に金の紐と房が垂れる。
ある秋の月夜の晩だった。


xxx

あたり一面広がる芒が、ざわざわと一斉に揺れ動いていた。
さにわと刀剣達で、今夜は月見をしようと言う話になったのは、皆が集まる昼餉のときのことだった。随分急だ、と色めき立つ男士達にさにわは、いつもの落ち着いた調子で、元は刀といえど、毎日闘いに明け暮れさせているからな、せめて月見くらいはさせてやろうと思うてな、と告げた。見渡す限り広がる草原を、一面に生えた芒と枯木を、歩む度にそぞろ踏み折りながら、小狐丸は思う。これは優しいぬし様からの、わたし達へのねぎらいなのであろう。事実短剣たちは半分遠足気分で、こんな夜半に皆で外に出られることを酷く嬉しがっていた。風流を好む歌仙も左文字たちも、表には出さねど久々に句をひねったり考え事に耽れるのを楽しみにしているようだった。
今もはるか後方で、幼子たちのきゃいきゃいという賑やかな声が聞こえてくる。小狐丸は吹いてきた風を体に受けながら、持っていた白団子を、潰さぬ程度にぎうと握った。
――一体いつの間にあんな場所まで分け行ったのだろう。小狐丸のめざす細い人影はまだ遠く、無数のすすきの向こうにあった。ぽつねんとひとり佇む様は、着物の色も手伝って、目を凝らさないと気づかぬうちに夜に紛れて消え去ってしまいそうだ。声をかけても届く距離とは思えなかったから、小狐丸はこうして歩み寄るよりほかはない。ひどく億劫で緩慢な手立てではあったが、思えば永の昔の劔の頃から、あいつはあんなふうではあった。自分は雲のように掴みどころがないくせに、他人を振り回し調子を狂わせるのは、呆れかえるほど上手かった。歳を経(ふ)るにつれて作られてきた、老獪な爺、という対外用の仮面はむしろ後付けだ。三日月宗近はずっとせん、若い時からああで、寧ろ、ある程度生きながらえたことで、上手い方便ができたと考えているのではないだろうか。
ちょうどそのとき、ふっと、その人影がこちらを振り返ったような気がした。
「おおい、三日月」
声を出して呼んでみたけれど、人影はそのまままたついと前を向いてしまった。小狐丸は少し不審に思う。こんなに大きなわっちの姿を、離れているとはいえ視認できぬということは、おそらくなかろうに。幾度か共に出陣し、闘いぶりを見せてもらったこともあるけれど、日々の鍛錬など怠り何処吹く風という割には、その流麗な切っ先も太刀捌きも耄碌の二字からはかけ離れた物であったし――だとすれば、彼のあの態度は意図的なのだろうか。
「三日月、三日月どの。さにわからの団子をお持ちしました」
団子で釣れるかと呼んでみても、人影はもう微動だにもしなかった。諦めた小狐丸が、芒たちを掻き分けて彼のもとにたどりついたのは、それから何分か後のことだ。
「おう」
月光に照らされて、いつもどおり静かに微笑むその細面は鮮やかだ。
「…兄上様。こんなに遠くまで来て。この小狐丸何度もお呼びしましたのに」
おどけて兄上呼ばわりすれば、三日月は少しだけ笑って、あに上はやめろ、と返してきた。兄上。作られたのは小狐丸のほうが先だけれども、彼の年に似ぬ落ち着きと面倒見の良さから、二人ともとても幼い頃、戯れにそう呼んでいた。だけれども―人の身と刀の身では時間の感覚も違うのか、そんな昔に自分が在っという実感は、あまり沸かない。悠久のそのまた悠久の、人知を超えた過去だからだろうか。生臭い人の身では、思うことすら不可能なくらいに昔日の話であるからか。
「何をしていたのですか?」
いやな、泰然とした口ぶりで三日月は応じた。
「月を眺めていただけよ」
優しげに細められている眸が、今は、くっきりと二つの月を眼に浮かべていた。小狐丸は芒洋と、ああ、美しいな、と思う。
「そうしたら、何か物音が聞こえた気がしてな。見れば大きな狐が月に釣られて来たようだから、化かされては堪らぬと思うて、目を離したのよ」
「…気づいてたんじゃありませんか。人が悪い」
小狐丸は少し呆れてそう言った。爺は愉快げにくっくっと声をたてて笑う。そうしてから、話題そらしにも見えねども、ついと空を指さして、
「見よ小狐丸、綺麗な月が出ておる。欠片も欠けない満ちた月だ」
と嘯いた。釣られて小狐丸も見上げれば、ぽっかりとまん丸い月が浮いている。
「月にいるのは、狐だったかな」
「いえ、兎です」
「おお、そうであったかな」
佳人はどこまで空惚けているのかわからぬ口調で嘯きながらからからと笑っている。主様からの団子ですと差し出せば、おうと嬉しげに歓声を上げて、すぐに受取った。ニコニコと笑いながら頬張る様は童子のように無邪気である。
団子を渡せばすることもなくなって、小狐丸も腕組みをして三日月のとなりに並び、月を見上げた。空気が澄んでいるせいか、皓々と照る月が近く、目映いほどだった。もぐもぐと団子を頬張りながら三日月は、そう云えば昔もお主とこうして月を見た気がするのう、と長閑に言いつのった。
「そうでしたでしょうか?」
問い返してから記憶を探るけれど、それらしい体験を思い出しはできなかった。三日月は、忘れたのか、まったく薄情な奴よのうーーとまた笑う。団子を噛んで片頬をふくらませているのに、その美貌はどこまでも崩れることがなかった。思えば月の下で彼と言葉を交わすのは、随分久しぶりだ。彼の髪の色、藍というのか群青というのかよくしらぬが、随分しっくりと月光を弾いて、肌もすけるようだ。三日月宗近という男はどういうわけか、太陽の下よりも月下のほうが、眩く輝くらしかった。
「どうした、小狐丸」
あいも変わらず本心を覗かせぬ惚けた口ぶりで男が尋ね、小狐丸は急いで彼から視線を外した。
「いえこの小狐丸、月夜で兄上と話すのも、ずいぶん久方ぶりだと思いましてな」
「おお。月夜の俺は随分美しく見えるそうよ」
ーーその言葉には一寸の淀みもなく、また表情には一分のおごりも無く、小狐丸が見遣ったさきには、ただ物静かにそんなことを吐く男があった。
「…おぬしも試してみるか?」
不思議な笑み。細く弱いくせにふり払えぬ力を持った手が、そっと小狐丸の着物の袖を掴んだ。
「は、?」
あらためて見遣ればどきりとするほど細い手首が、小狐丸を誘って引き寄せる、あっけに取られてほとんど反応を返せないうちに、三日月の唇が小狐丸の口唇の上にのっていた。小狐丸が振り払うまもなく、ぐっともう片方の手が襟首をつかみ、口の中に柔らかな舌が忍んでくる。
「あにうえ、なにを」
謎めいた微笑は優しげで美しいけれど、それ以上のものをのぞかせることはない。三日月宗近の本心など、小狐丸にはわかるはずがない。
「せっかくこんなに佳い月が出ているのだ。夜伽には格好の機会ではないか」
先刻小狐丸が近づいてくるのをみやって、皆から酷く遠くに来させたのはこの為だったのか。寄せられた体からはほんのりと白檀の香がにおう。力の抜けた声で、小狐丸の耳元に三日月は、
「われと…踊ってみせよ小狐丸」
と囁いた。いつものうつとぼけているくせに芯のある声とは異質の、投げやりなほど力の抜けた声は、しかし逆らうことを許さぬ威厳があった。脳天が打たれたように痺れて行く。三日月の手はすいと小狐丸の豊かな毛並みを梳きながら下に下がって、それともこれは飾り物か、と、不浄の場をやわりと触り、あけすけに問うたのだ。



やめないか、三日月

なぜだ?人も刀も、大きいことは--そこで言葉を切り、上目遣いに小狐丸を見ながらべろりと舐めあげて――快(よ)いことだ、と、赤い舌を覗かせて三日月は言った。
「そ、外だろう…」
狼狽えながら小狐丸は言い返す。ひとの身の、この快楽(けらく)は。刀の時には思いがけることすら出来なかったものだ。支配されそうになってしまう、理性だとか感情とかを圧倒的な濁流でさらい流して、無理矢理になにも考えられないけものに成り下がらせる力がある。
「っく……は………」
「楽しんでおるではないか、ういやつめ」
くすりと、淫らな笑いを浮かべて三日月が言う。その小さなあざけりすらが、小狐丸の目をちかつかせ、下肢の熱を高ぶらせていく。はあ、はあ、呼吸が荒くなっていくのを止めることができないまま小狐丸は、やっとのことで三日月のちいさな頭を掴み、すっかり隆起した自身から遠ざけようとした。
「み、皆もおる……」
「こんな遠くまでおいそれとは来れぬまい。それに、近づいてきたら音でわかるさ」
こんなときだけ口が減らぬ爺だ。ざらついた舌が、やわらかく小狐丸の自身を舐めあげてゆく。少し冷えた秋の外気に、三日月の口の中の温度だけが凶暴なほど生々しい。僅かな唾液の音がぴちゃぴちゃと鳴る。奉仕の言葉そのままに、三日月宗近ともあろう翁が、小狐丸の肉棒を口で愛撫する。
「それに、外で、皆もおるから、好いのではないか」
三日月はいう。弓なりに唇が笑み、瞳の中の三日月夜がしっとりと潤んでゆく。月光を浴びて映されたその姿は、神聖という言葉が浮かぶほどに清浄だ。秋の風がざわざわと吹いて、芒と二人の衣、髪を弄ぶ。その心地よさに気を緩ませるまもなく、ちゅぅ、と卑猥な音とともに啜られた刺激に、小狐丸は全身をびくんとわななかせた。
「ッは、くっ、み、三日月、やめないか」
「お主はじっとしておれば良いのよ」
さらりとした力の抜けた声で三日月が曰う。小狐丸のたくさんの白い毛並みがこうこうと吹く風になびいて、三日月の体にまでまとわりつく。髪飾りも揺れて、月光を反射する。
「うっ――はぁ、」
刺激に耐えられず藍色の柔らかな髪をぐしゃりと握った小狐丸に、三日月は心底楽しそうにくっくっと笑い声を立てた。
「お主のことだ、ひとの身の快楽(けらく)など味わったことがないのだろ」
当然のことだった。食うことや寝る事といった原始的な快楽は、本丸で生活をすることでだいぶ親しんできたけれども、このような淫らな快楽などを愉しむなど思いついたこともない。人の身になってまだいくらも経たないのだし、毎日が戦まみれとくれば、そんなことをする余裕など無かった。
「おれが教えてやろう」
三日月はそう挑発的な視線を寄越してべろりと其処を舐めあげる。段々と腰の辺りに何か熱いものが集まってくる感覚に、小狐丸はもぞりと身を震わせた。三日月は目ざとくそれに気づき、もういくか? はやいな、と笑った。
「ぃ、行くーーとはなんだ、三日月」
「ふふ。人の男の身はな、達すると精を放つのだ」
「精、をーー?」
「それを女の肚の中に出すことで、人とは子を成すものらしい」
「っ…――」
三日月が喋る度に彼の吐息が小狐丸の自身にかかる。ひやりとした空気と入り混じって、何とももどかしいような、気持ちの良いような、せつないような、妙な心持ちが、ぞくぞくと背筋を這い回る。
「目を開けてとくとみよ、小狐丸。これがお前の、子を成す場所だ。良さそうに震えておるぞ」
その有無を言わさぬ口調に閉じた目を開けば、赤黒く太い己と、それを間近で見詰める三日月の顔が視界に飛び込んでくる。目眩にも似た動揺に小狐丸ははくはくと息をついた。
「見るのは…勘弁してくれ」
「なぜだ?」
「お前がそんなに近くに居られると――困る、何だか…頭が変になりそうだ」
「ほう?」
それはそれは、また愛(う)いことを言うのう。穏やかに三日月は云って、白魚の指で小狐丸のそこに触れた。
「達してよいぞ、小狐」
耳を掠る声。ずっと昔から慣れ親しんできたようで、この三日月は小狐の記憶のどこにもいない。倒錯した。どこか違う世界に紛れ込んでしまったような、恐ろしいような、さびしいような、愉しいような、奇妙な感覚が錯綜する。
「わたしは――こんなことは、知らぬ、三日月、」
助けてくれ――眦に涙さえ浮かべて強請る小狐丸に、三日月は、
「怖がる必要はない。身をゆだねればいいのだ。なあに、何処にもいかぬ。毀れもせぬさ。ただ一瞬天にも昇る心地になるだけよ」
いつしか小狐丸は三日月の頭に手をやって、淫らな動きをするように導いていた。ジュプッ、ジュプッ、と、品の無い音が、清浄な月夜にこだまする。ちかちかと目がくらむ。口が開いたままで、知らぬうちに涎が口の端から溢れている。三日月の髪飾りが乱れて、律動に合わせて耳の近くでぶらぶらと揺れている。じわじわとこみ上げる得体のしれない衝動に、小狐丸は目を瞑り声をあげた。
「あ…っ、いく、いくぞ、みかづき、く、は、ああ、ああ、ああっ」
意識が飛ぶほどの快感と同時に、熱い何かが、勢いよく小狐の先から迸った。
「み、三日月、何かが出た…っはあ、すまぬ、お前の、口の中に出て、しもうた」
朦朧としながら謝る間も、自分のそれは三日月の口の中に出続けていた。口から零れたそれは、うすら白い水のようなものだ。静かな表情でそれを受け続けている三日月は、時折こくこくと喉を動かし、それを呑んでいるようだった。
「な…何、を…」
「ふふ、小狐丸、おぬしの精は濃いな」
「せ、いを…」
「これが人の身の精というものだ」
「お前は私の精を、呑んでいるのか?」
「ああ…長いな」
小狐丸の長い吐精に、そこで初めて三日月は、戸惑った顔を見せた。どくどくとあふれ出てくるそれは、いくら溜めていたとはいえ、少し尋常ではない量だ。
「これは、飲み切れぬ」
けは、とせき込みながら三日月が口を外した途端、小狐丸の精は、地面へと垂れ、すすきの間に流れていった。でろでろといつまでも止まらないそれに、三日月は驚いたように目を剥いた。
「量も、異様に多いが--出したというのに、萎えておらぬな」
不思議よのう。間抜けた調子で言いながら、三日月は小狐丸のそれを間近で検分する。人のものではないような、と言ってから、彼はおお、と声をあげた。
「もしかしたら、お主が作られる時に力を貸したという、狐の名残なのかもしれぬのう」
ふふ、未だ猛ったまま雫をこぼし続ける小狐丸の急所をいと惜しげに見つめて、三日月はそのように淫らに笑うのだ。
「み、三日月」
「どうした、小狐丸。どこかおかしなところがあるか?痛むところなどあったら申すがよいぞ」
「い、痛むところはないが、なにか…お、おかしな心地だ」
「ほう?」
小狐丸は飢えを知る。それは生なかな空腹や寝不足で覚えるような生易しいものではなかった。たましいとしての原初として、そう、刀が血を求め、肉を断ち、命を奪うことを欲する時の――自らのいのちを成り立たせるために必要な、生存本能のような衝動だった。自分でも意識せぬほど素早く、小狐丸は三日月の華奢な肩に手をかけ、地面に組み伏せていた。ぱちくりと目を見開いて、理解が追いつかぬ様子の三日月の 口は、小狐丸の精で汚れたままだ。なんだかたまらなくなって、小狐丸はなんの断りもせぬまま、彼にくちづけし舌を差し入れた。抵抗する四肢を有無をいわさず押さえ付けて、なまぬるい口内をひたすらに貪る。白檀の匂いに気が狂いそうだった。ほんのりと苦いこれは小狐丸自身の精の味なのだろうか。体液というよりは、にがい果実か薬の味がする。三日月の舌はこうしてみるとひどく薄くやわく、肉厚で長い小狐丸の舌であれば、容易く巻き込み、思う様押し包むことができた。身じろぐ三日月宗近は男というより女のようで、女というよりはやはり三日月、宗近だった。神聖で美しく、侵しがたい。なのに今夜の彼は――ひどく淫らだ。
牙が刺さったのか、つうと三日月の口の端から血が流れ出る。それすら小狐丸は瑞水と啜った。わなわなと震える体、着物がはだけて覗く足。そんなものなどこの俺の体であるなら、容易に抱き込み押さえ付け、いうことを聞かせることができる。今まで存在も知らなかった後暗い欲望は、一度火がついてしまうとどう止めたらいいのか見当がつかなかった。
「み、三日月、三日月……」
元より愛撫の経験などない。ただ欲望のままに組伏せ、耳元で囁き、口を貪り、足を絡ませ、ぎうと己が股間を押し付ける。そのくらいのやり口しか、小狐丸にはわからなかった。すっぽりと包める細い体は、なんだかひどく容易く思いのままにできるようだけども、めったなことをすれば儚く消えてしまいそうでもあり、全体どうすれば、この衝動が解決されるのがからなかった。
「ふ、もう一度出したいか…?」
「三日月」
優しく笑うその人は変わらない。きらきらと月光と精をまとわりつかして、どこかあやうい目つきをする以外には。そしてそのわずかな異差が、どうしようもなく小狐丸の衝動を掻き立てる。
「あいわかった」
眸の中の三日月が、凝視と小狐丸を見つめている。そこに映る己の赤い目がひどくぎらりと光っていて小狐丸は動転する。
「――ならば、これを脱がせろ」
触ってよし、とうそぶく三日月の衣服を、破らぬよう脱がせるのは至難の業だった。汚さぬよう、痛ませぬよう、脳に残った理性はそんなことをのたまうのだが、力加減がうまく制御できない。口からあふれる唾液も、充血していく目も、みるみる熱を帯びる下肢も、獣のように荒ぶる息も。苦労してはだけた襦袢のなかから、白い肌が覗いた途端、小狐丸は遮二無二そこにしゃぶりついていた。淡く色づいた胸の先端は少しく尖り花弁のようで、膨らみも乳も出ぬそこが何故だか猥らな場所に見えた。いたいッ、と三日月が声をあげてからは、極力噛み付かぬようにしたけれど、それでも牙の当たるのはどうしようもなく、三日月は時折びくびくと身をしならせていた。
「くっ…ふぅ、」
常とは異なる声色が聞こえ、ちらと三日月を見やれば、頬は紅潮し、目尻に涙が伝い、口は無防備に開いている。
ふと小狐丸のなかの獣が、これはおれの獲物だ、と囁いた。なるほど獲物ならば、食わねばなるまい。骨も肉も貪り尽くし、俺のものにせねばなるまい。
愛らしくとろけた顔の、先ほどえも言えぬ快感を与えてくれた三日月の口に指を突っ込んで、そのやわやわとした感覚を楽しみながら、小狐丸は彼の帯を解き、下肢の着物も乱していった。しばしして、しっかと筋肉のついたしなやかなからだが月光の下に露わになる。下履きの下のそれは硬く持ち上がっていて、先程三日月がしたように小狐丸はそれをやわやわと触りこんだ。したたかに熱い。
「んんっ…!」
足を動かして三日月は抵抗する素振りを示したけれど、もうそんなものなど構っておれなかった。下履きを解いて飛び出してきた三日月のそこは、小狐丸より小ぶりだけれど、しっかりと猛り、ひくひくと震えていた。多少のためらいながらも小狐丸が、三日月にならってそこをくわえこむと、彼はひぅ、と小さく声をあげた。
あの三日月宗近が、ひぅ、とは。
「あっ……やめ、やめろ、小狐、っ…ッ、」
熱っぽく息を吐く彼の姿は、言葉とは対照的に非常に淫らだ。びくりびくりとわななく身体は、すっかり小狐丸の唾液に塗れて濡れている。
「黙っておれ三日月、誘うたのはお前だろう」
発した己が声は、獣の唸りの如く低くかすれていた。先端から苦いものがこぼれて顔をしかめる。自分の味とは随分違う。小狐丸が獣に近い体をしているのなら、この三日月は人間の方に近いということだろうか。彼の名が刀匠にあやかってつくられたことも、関係しているのだろうか。
「ッ…やめろ、小狐丸、お主の舌が厚く…、っあ、」
「快いのか?」
その問いに答えは返って来なかったけども、おそらく図星なのだろう。時折口から溢れる声は高く、色めいていた。暫く彼にされたことを試しているうちに、三日月はあっけなく果てた。彼の吐精は、自分のものに比べると短く、量も少なかった。三日月がさっき当然のように飲んでいたのだから、害になるものでもないのだろうと、小狐丸もそれを嚥下する。だが、あまりの苦味にやはり全ては飲めず、彼の薄い腹にてつてつと残った。ほうけた目をして息を荒げている三日月に、小狐丸は覆い被さり、涙の痕が残る頬だの唇だのを嘗め回す。
「――三日月、どうすればよい、三日月」
「こ、ぎつね…」
頬を上気させて、ゆるゆると小狐丸の毛並を撫ぜる三日月に、多少すまない気持ちも沸いたけれども――仕掛けてきたのは三日月である。ここで終わらせるわけにはもういかぬ。背中に手を差し入れ、首筋、肩甲骨、背骨、尾てい骨、と辿って、その尻を掴み揉みしだく。ぴんと張った肌のその感触は快い。はあはあと息を荒げて腰を降りせっつくと、三日月は、わかった、一度はなれよ、と小狐丸に指図した。言われるがまま体を離すと、三日月は体をおこし、腹の上の精を掬った。そして、一糸まとわぬ姿を月光の下に曝しながら、己が秘所にそれをなすりつけていった。
「三日月、何をしておるのだ」
その姿に当てられながら、小さく小狐丸が尋ねる。三日月は、苦しげに笑いながら、準備さ、と返した。つぷんと小さく音を立てて、指が三日月のそこに出入りする。普段なら美しく整えられている髪は乱れ、髪飾りも外れて地面に落ちていた。それでも崩れぬ彼と言う人の気品は不可解なほどだ。
「私にも手伝わせろ」
ぬっと腕を伸ばして抱き込めば三日月は驚いたように目を剥いたが、小狐丸は構わなかった。尻を突き出させ、その場所にずぷり、と指を突き立てる。三日月は小さく痛い、と呻き目を閉じた。その中はひどく熱く、狭く、ねとついている。「すまぬ、」無闇な興奮がまた込上がってくるのを覚えながら、小狐丸は謝り、そこをどうにか緩ませようと指を押し入れていった。
「っ、加減しろ、小狐、ここには油も何もないのだ、少しはいたわれ、」
「油?」
珍しく咎めるような声を出す三日月に、新鮮なものを見た気持ちになりながらそう問い返すと、三日月は、
「普通は、このような場所は、女性のそことは違うのだから、油などで滑りをよくしてから、入れるのだ…」
「なるほど。三日月は随分と物知りなのだな」
そう言いながら、小狐丸は彼の尻に顔を近づけてそこをじっと眺めた。桃色の肉がわずかにめくりあがり、小狐丸の指を受け入れている。不浄の場とは思えぬほど綺麗な色に見えた。
「あ、あまり見るな、」
恥じ入ったように三日月が声を上げる。まろく白い尻が良く見える。
「濡らさねばならぬのか」
「そう、だな、諦めるかーー、っう、?」
ぬるり。
小狐丸がまだ精の残滓が残る己をそこに充てがうと、塗込められていた三日月の精と交わってそんな淫猥な音を立てた。ぐちゅり、ぐちゅ、ぐちゅ、いっしょに指でいじりながら、軽く先端をぬりつけていく。
「っこ、小狐丸……」
「急に入れはせぬから安心しろ、要は濡れればいいのだろう」
「そ、それは、そうだが、…」
泡を食ったように慌てたり、少しおびえた風情をのぞかせたり、先のように気恥ずかしそうにしたりする三日月はひどく新鮮だ。今も少々不安そうな目つきで、小狐丸の一挙一動を眺めている。
「ふふ。こうしているとおまえは随分いろんな顔を見せるなあ」
そう言うと、三日月は面食らったようで、不可思議そうに眉根を寄せた。そうすると力が抜けたのか、三日月のそこが少し緩む。腰を入れると、ぬちぬち、と言う音ともに、小狐丸の先端がめりこんでいった。三日月は顔をしかめて、くっ、と息をつまらせる。そうすると男の体内はぎうとしまり、小狐丸を締め付けた。
「ふっ――、いかん、三日月、締めるな。息を吐け」
「そんなことを言うな、無理だ…こんなに太いもの入らぬ」
「今更無体なことを言ってくれるな。入らぬでは困るだろう、入れるのだ」
そう言いながら、小狐丸は身を伸ばして三日月の、月光を浴びる背中に口づけた。驚いたように振り向く三日月の、その唇にもくちづける。
体内はひどく熱い。熱いけれどねたついて、ひどく気持ちが良かった。こんな場所に小狐丸全てをおさめようなどしたら一体どんな心地になるのか想像もつかない。狂うてしまうかもしれなかった。小狐丸の小がとれて、もしかしたら丸もとれ、ただの狐へ、獣に成ってしまうかもしれない、そんなことすら考えてしまう。ふるりと緩んだ口の隙間に舌を差し入れ、その口を貪る。彼の前に手を回して、萎れかけていた局所を掴んでゆるゆると扱くと、三日月は呻きをこらえて、顔をそらしはあ、と熱い息を吐いた。
――月のしたでふたり、獣のように重なってまぐわろうとしている。

ぱん、ぱん、
聞きようによってはま抜けた音が静寂に響く。三日月はもう声をこらえることも諦めたらしい。突きあてる度に悲鳴のような嬌声をあげて、性器を揺らす。熟れた乳首はしろい肌にあって鮮やかだ。雪の中の桜のように誰もの目を奪う。いつもの取り澄ました上品な態度はどこにやら、今の彼は口からよだれを溢れさせ、快楽に顔を歪ませて、まるで売女のようだ。細い腰がゆらゆらと振れて強欲に快感をねだっている。髪は地面に何度も擦り付けられてとっくに乱れ、ところどころに小狐丸の精が乾いて張り付いていた。だらしなく揺すられてぼんやりとわらうそのすがたはどこまでも小狐丸の底深い業を刺激した。これを人は嗜虐心とでもいうのだろうか。暴きたい。暴き壊し狂わせ、屠り、隅々まで奪って見たい。興奮のあまり全身の毛が逆だっているような気もした。目が釣り上がり、指先からばちばちと火花が散るような心地がした。これが。こんなものが人の性(さが)なのか。肉体を持ち心を持ち、それだけで人はこんなものを囲うのか。それはひどくつらく、煩雑な営為に思われた。しかしそれを獲得してしまった今、そこから抜け出す術を小狐丸は見失う。残酷なまでの所有欲がめらめらと燃えて小狐丸の何もかもを焦がしていく。その導火線をつけたのは誰ならぬこの三日月で、さればもう歯止めなど聞くはずもない。天下の凡百の劔よりもうつくしいと噂されたこの男を。どうすれば。どうすれば今燃やしたわけのわからぬ執着から解放させられると思うのか。 彼の目の中の穏やかな夜空が見るかげもなく濡れて乱されている。それを見るだけで胸の鼓動が爆ぜていく。
「っくっ――み、三日月、っはあっ…!」
堪らず男の名を呼べば彼は淡く笑う。いつもの上品な笑みをとろりとした目に浮かべて、いくか、小狐丸、と、あの深い海のような声で言った。
「あ、あ、出る、出す…っ!」
情けないような声とともに、驚くべき勢いで熱が小狐丸の自身から放たれた。三日月が目を閉じて、体内で放たれたその感触に甘んじる。彼の性器もほぼ時を同じくして精を放ったらしかった。はあ、と二人同時に深く息を吐いていた。
「大事は無いか」
圧倒的な熱量の残滓を身に囲いながら小狐丸が問うと、彼は掠れた声でああ、と応じた。そよと夜風が吹いて、ざわざわとすすきが一斉に鳴く。





「水浴みでもしていたことにしよう」

そういってからからと笑う三日月はもういつもどおりの老獪な男に戻っていた。髪や体の汚れをどうするかと話しながら歩き回っていたら、偶然小川に出くわしたのだ。
「こんな秋にか」
「ふむ。まあ、俺らはじじいだからな。多少理不尽な言動があってもみな見逃してくれるさ」
「…どういう理屈だ、それは」
三日月は機嫌が良さそうだった。いや、たとえ不機嫌なときであれ、いつもの好々爺然とした体を崩さないのが、彼という男であるけれど――にこにこしたまましゃがんで、川の水に手をつけている。
「なあに。昔は寒中水泳などもやったものさ」
「昔は昔だろう、全く…、!?」
てらいなくさきほど着付けた着物を脱ぎ出した三日月に小狐丸は絶句した。たがわぬ美しい裸体が、月光に曝される。
「おまえ、何を――」
「見張っておれ、小狐丸」
「はあ――っ!?」
ふ、と笑うと、三日月は信じられないことに本当にざぶざぶと川へ入って行った。頭の髪飾りがきらきらと月の光を受けて煌めいている。鼻歌でも歌いかねない風情で髪や体の汚れを流し始める様子を見ていると、こちらが風邪をひきそうだった。だが――三日月を汚したのは大方が小狐丸のものであって、それを思うと無理に引き止めることはできない。仕方がなく言われたとおりに三日月を追いかけて川の淵を歩きながら、小狐丸は辺りを見回した。何もなかったような、しづかな月夜がひろがるばかりだ。
「おうい、小狐丸。ちと来い」
「あまり遠くまで行くな、三日月」
楽しげな声が子狐丸を呼ぶ。ふと、この月見を遠足と思っていたのは短剣たちだけではないのかもしれない、と小狐丸は思う。朝な夕な戦いにあけくるる毎日に、三日月は三日月なりに少しく嫌気がさしていたのかもしれない。思えばいつの時代でも、ひねもす歌を詠み、鞠を蹴り、書(ふみ)を読み、そんなふうに過ごしていた男だ。顔には出さないながらも、色々と心労もあったろう。だとしたって、どうしてあのような行動に発展するのかは解らないけれど…もしかすれば彼なりの鬱憤の発散の仕方だったのかもしれぬ。
呼ばわれた方向に足を運ぶと、三日月は、綺麗な色の鱗が落ちていたぞ、とはしゃいでいた。とくと見よ小狐丸、と言葉だけは雅やかに差し出されたそれは、彼の言う通りなにかの魚の鱗のようで、降りしきる月光を七色に弾いていた。うつくしいな、と素直に感想を洩らせば、ふふ、そうであろう、宝物にしようかのと、爺は爺らしくないことを言って笑った。
「こうしているとなんだか、昔を思い出すな、小狐丸」
「今日でその話は二回目だな」
「年寄りは思い出話しかすることがないからなあ」
――三日月のそのわらしに似た邪気のない笑を見ていると、しかし小狐丸にも、ある記憶が蘇ってきた。あれはいつの世のことだったろう。とにかく自分も三日月もまだ生まれたばかり、幼ない童子で、よく二人でどこかに行って遊んでいた。山野も豊かであると同時にひどく畏ろしい時代だった。どこにいっても自然の神が、今でいう人のように生活していたものだ。山野に分け入る際に目印にしていた木や花を動かして道に迷わせる神もおわしたし、そうかと思えばひどく優しく、雨にふられて困って泣いていたところを、何十と虹のかかる青空に、変えてくれた神もおわした。三日月とふたり、もう少ししてからは、鶴丸やほかの刀とも一緒にほうぼうへと探検しに行ったものだった。
「――そうだな。私も少し思い出した」
「おお、それは真か」
小さかったときは小狐丸という名も、随分しっくりとしていたのになあと、三日月は今や見る影もなく大きくなった小狐丸に笑いかける。ああ、幼い頃三日月と色々と探検していたな、と告げると、彼は、幼い頃のお前はそれはそれは愛おしかった、と、昔を懐かしむようにつぶやいた。そして、改めてというように、小狐丸に視線を傾ける。
「勿論、今もだが」
 お前はどんなに時が経とうと昔と変わらなくて、なんだかひどく居心地がいいのさ。飄々とした口ぶりで言われても真意ははかりがたかったけれど、額面通りに受け取るのであれば。それは小狐丸とて、同じことだ。あの時はこんなに長くつるむことになるなどとは思いがけもしなかった。ただ同じ男につくられて、居住を共にし、童ならではの気安さで、いつだって一緒にいたまでだ。だが…と小狐丸は未来を思う。出来ることならもうこのままずっと、気楽な間柄でありたいものだ。これだけの時が経ったというのに、いまだ平安の名残を引きずって、時代に残された刀二人なのだから、もうそれ以上望むものもないだろう。
 あんまり入っていると本当に風邪をひいてしまうぞ三日月、文字通り年よりの冷や水では洒落にならん、そう小狐丸が促すと、三日月は、おお違いない、と口ではのたもうたものの、しかし相変わらずゆったりと水をかき分けている。小狐丸は肩を竦める。小狐と名のつく自身よりも、彼は浮世離れしたところがある。それが少し面白かったが―考えて見れば当然のことかもしれない。三日月とは天上のもので、小狐とは地上のものなのだから。
「本丸に帰ったら久しぶりに笛でも吹こう。舞ってくれるな、小狐丸」
 彼の名は遠い天であかあかと地上を照らしている。小狐丸は、
「ああ、たまには良いな、ぬし様も喜ぶだろう」
と返して、毛艶が汚れないように気を使いながら、川辺に腰をかけた。優雅な彼の身支度には、まだまだ時がかかりそうである。